テキストサイズ

エスキス アムール

第54章 仲直りしよう






矢吹の手には、病院の名前が書かれた大きな封筒が握られていた。



「…ああ、これ…ね、」


苦笑いをして、少し隠すそぶりに心配になる。
そういえば、今日は心なしか元気がなさそうだ。



「お前…どこか悪いのか…?
まさか…なんか深刻な病気とか?!」

「いやいや、僕は至って元気だよ。
…身体が悪いのは母親。」

「お母さん…病気…?」

「うん…、結構酷くてさ。」


そうさらっと言った、矢吹の顔は影があって。
本当にお母さんの容態が良くないことが伺えた。



「…そっか…」


安易に良くなるといいなとも、きっと大丈夫だとも、言えなくて。
でも何か気の利いた言葉も見つからなくて。


そっかしか言えない自分に情けなくなる。
そのまま沈黙が続くと、矢吹がポツリと言葉を紡いだ。




「……今日が…峠なんだ…。」


「…………え…?」









ストーリーメニュー

TOPTOPへ