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エスキス アムール

第54章 仲直りしよう

【矢吹side】





「これで回復に向かうでしょう」


そう医師から告げられて本当にホッとした。


僕には兄弟もいないし、父親も僕が小さい頃に離婚していない。
母親は女手一つで僕を育ててくれた。


かけがえのない家族を失うことなんて想像できなくて。どうしたらよいのかわからなかった。


治らない病気ではないと言われていたから、どこかで安心していたのだ。

それが最近になって、容態が悪化して。
なんでこんなに急にと、混乱してしまった。



一瞬にして突きつけられた、母親がいなくなるかもしれないという現実に、目の前が真っ暗になった。



気がついたら、僕は駅前にいた。
そうしたら、見慣れた人がいて。


今ある現実を忘れたくて、波留くんに声をかけた。



いい年になって恥ずかしい。
一人でその現実を受け止められなくて、逃げようとしたのだ。


けれど、予想に反して彼はそれを許してはくれなかった。





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