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エスキス アムール

第58章 邪魔








「あれ、波留くんとお揃いのやつだよね?」

「…う、うん…」

「今日はつけてなかった」

「そ、そっか…」



付けていないって。
マジかよ。


思わず携帯を手に取る。
いや、会いに行こうか。


どうしよう、どうしよう。




「矢吹ちょっと…俺、一回出てくる」



慌てて、玄関に向かう俺を矢吹は腕を掴んで引き止めた。



「…矢吹…?」

「…光平くんのことだけど…、」

「……何…?」



嫌な予感がする。
…嫌な予感しかしない。


ドキドキする心臓をなんとかごまかして、矢吹に問う。



「行かない方が、いいと思う…」

「…どうして…?」

「光平くん…俺に波留くんのこと、宜しくっていってた。
もう…顔も見たくないって」

「………顔も、見たくない…?」




そんな。


嘘だろ。



「時間おいて会いに行けばいいよ。僕も掛け合ってみるし。」


矢吹の優しい言葉に頷く。

ショックで崩れ落ちそうな身体を必死に支えた。




木更津がいない生活なんて考えられない。

木更津がいない家に帰るなんて嫌だ。

木更津と離れるなんてできない。




目の前は、真っ暗だった。







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