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エスキス アムール

第58章 邪魔

【矢吹side】







本当はちゃんと言うつもりだった。



波留くんにもう帰っていいと、言うつもりだった。

光平くんは余裕に振舞っていはいたけど、波留くんのことを心配していることは間違いない。

波留くんだって、もう帰りたいに決まっている。



光平くんの左手首にはきちんと時計がはまっていたし、彼のことを嫌いになっているはずがない。


ちゃんと言おうと思っていたのに。




「光平くんに会ってきた」



光平くんという名前を出した時の波留くんの変わりように、一気に黒い感情が僕の心を支配した。


あの期待に満ちたような、驚いたような、僕の前じゃ決して見せない光平くんにしかできない顔。


皆、そんなに光平くんの何がいいんだ。


どうして僕じゃダメなんだ。



そんな嫉妬の感情を抱えて、考えているうちに、気がついたら、嘘をついていた。




『時計…?
ああー、付けて、なかったな。』




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