
エスキス アムール
第60章 全てを捨てたって
斎藤。
何年ぶりに聞いただろう。
本当に久しぶりだ。
だけど、、いい思い出でもなくて、僕は俯いた。
「今だから分かることだけど、矢吹はあの時も、僕から彼を意図的に離れさせたんだね。」
「……」
光平くんはあの当時もなんとなく感づいていたのか。
今回の一件がなければ、完全に気が付くことはなかった。
自分でもわからない感情が渦巻いた。
10年ほど前、僕は光平くんと企業セミナーが一緒だった。
あの頃から光平くんは周囲の期待も高くて、何もかもスマートにこなす彼は男女問わず人気だった。
光平くんは特定の友達みたいなのをつくらない人だった。
そんなのを作らなくても自然と人が寄っていくのだ。
