
エスキス アムール
第60章 全てを捨てたって
「ずっと一緒にいた斎藤くんが僕を慕うから面白くなくて、というのもあるけど、僕のことを知りたいのに、知ることができないもどかしさも、僕と斎藤くんを引き離すきっかけになった。
それから、僕に執着し始めて、僕を通して波留くんを見たときに、面白そうと思って近づいたら、思った以上に魅力的だった、ってところかな。」
こいつ…長々と。
うるさいと言いたいところだけど、的を得ているから、言い返すこともできない。
波留くんの魅力は大誤算だった。
あんなに、可愛いと思わなかったし、あんなに引き込まれるなんて思っていなかった。
「模倣の人間に価値なんてない。世界に一人しかいないから、価値が出るんだ。
矢吹はだれかの真似なんかしなくたって、十分やっていける。
今の会社だって、自分の手であそこまで大きく出来ただろ?」
「……っ」
優しい光平くんの物言いに、一瞬、ほろりと涙が出そうになった。
正直、お金もない中で会社を立ち上げるのは大変だったし、大きくするのも本当に大変だった。
母さんを心配させまいと、誰にも弱音なんか吐いたことはなかったけど。
光平くんは見ていたようなことをいうものだから、感情が高ぶったのかもしれない。
