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エスキス アムール

第66章 木更津の動揺

【波留side】 






「………はは……」



良子ちゃんが演技をしている間に社長室の扉の前で待っていた。


ガタガタと物音が聞こえて、何事かと思ったけど。


勢いよく扉が開いて見えたのは、顔を青白くした木更津の姿だった。



罪悪感はあったものの、軽い気持ちでやったこと。


俺は、ドッキリでしたテッテレー♪みたいな感じでの種明かしを想像していけど、木更津の顔を見たら、そんなことができなくなってしまった。

こんなに動揺して青白い顔の木更津を見たことがない。



驚いて俺のやっとの思いで出した、乾いた笑いだけがそこに響く。



木更津は事故に遭って病院にいるはずの俺を呆然と見つめている。




暫く沈黙が流れて。




「ごめん…光平……俺…」

「……」

「あ…光平!」


ちゃんと謝って、事情を説明しなきゃと話し始めると、木更津はぼーっとしながら、フラフラと歩いて俺の横を擦りぬけた。





「ま…、まって!木更津…!」


追いかけて、木更津の腕を掴む。



「い―――――っ」


けれどもその手はバシリと払い除けられて、隙間から見えた木更津の顔は、


今にも泣き出しそうな、哀しい顔だった。





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