
エスキス アムール
第66章 木更津の動揺
「こーへい…こーへい…っ」
堪らず木更津の背中に抱きつく。
今までしがみついていた大きな背中が嘘みたいに小さく感じられた。
「ごめん…っ光平ごめん…っ俺…俺…本当にごめん…」
「……」
ぎゅーっと抱きつくと、木更津は俺に身体を向けて背中に腕を回した。
ギュっと力がこもって、安心する。
「波留くんは…全く僕のことわかってない」
耳元で聞こえるその言葉に、少しショックを受けながらも、頭を首筋に摺り寄せる。
「あれだけ…言ったのに」
「…僕は波留くんのこと…わかってる」
「どうして…わからないの」
「なんで、こんなこと」
「僕をどうしたいの」
「どうしてわかってくれないの」
何度も何度も耳元で紡がれる非難の言葉に、俺は何も言えなかった。
木更津は小さな声で、何度もどうしてどうしてと、呟いた。
『波留くんがいなくなったら、死ぬ』
あんな言葉を言わせてしまって。
あの時にこんなことやめるべきだった。
ちょっと、慌てるところがみたいだなんて。
木更津を悲しませるだけなのに。
「どうしてわかってくれないの…こんなに……波留くんのこと…こんなに……」
その先に続く言葉はもう分かりきっていて。
その言葉を聞くと、涙がこぼれ落ちそうで。
こぼれる涙を抑えて、俺への愛を紡ぐその唇を、そっと塞いだ。
