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スノードロップ

第1章 こい、はじめました。

「拓人、やめろよ。困ってるだろ」

見上げた先の彼と目が合い、覚悟はしていたが大きく心臓が跳び跳ねる。
美月に気づいていないようで、振り向いてからの表情の変化はみられない。
2回会っただけの客のことなんて覚えていられるはずない。
そう信じることにした。
それならば、あの失礼も覚えてないってことだから。

「なに?春仁、この子タイプなの?」

「バカいうなよ。そんなことばっかり言ってるから誰にも相手にされないんだろ」

すると先程まで、美月の隣に並んでいた男は軽く春仁に舌を出すと、そそくさと先頭の方へいってしまう。

「ごめんね、あいつしつこいでしょ」

春仁にそう話しかけられて、そんなことないと言おうとした口を閉じた。
そう言ってしまっては、春仁のことを否定するように感じてしまったから。

「ありがとう」

美月は精一杯、自分なりの笑顔で応える。
今はただ彼と知り合いになりたいと純粋に思っていた。
そんな美月を、春仁はじっと見つめる。
春仁の目線を感じてか、不自然に目をそらしてしまう。
そらしたところで、反対に注目されてしまうと気付いた時には遅かった。

「…どこかで見たかな」

その言葉に、今度こそ心臓が出るんじゃないかというほど、美月は焦った。

「そ、そうかな?」


「なんだよ、やっぱり春仁が口説いてんじゃん」

そこにさっきも聞いた声が聞こえた。
この時ばかりは、天の助けだった。

「なっ、ちがうっ、お前と一緒にすんなっ」

どっと一同で笑いがおきる頃には、ようやく目的の店へ着いていた。
おかげで、その話題も自然と流れてしまい、またしても美月は救われたのだった。
店についてからは、理学部、文学部別に着席したわけだが、早々と入り乱れ、当初の目的である"交流"は意図も容易く行われた。
端から深く参加するつもりのなかった美月は、端の席でその様子を眺めては、目の前の手のつけられていない料理をつまんでいた。

「(みんなお酒も入ってないのによくしゃべるなあ)」

「高橋さん」

テーブルに目をうつすと同時に、巨大な影が隣へ腰かける。
彼だ。

「交ざらないの?」

交ざりたくない。
なんて嘘でも言えないので、愛想笑いで済ませておく。

「……本、どうでした?」

春仁の表情は変わることなく、美月を見つめたままだった。
美月はこの日何度目かの動悸を感じていた。
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