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第1章 こい、はじめました。

午後6時、5分前。
普段着では着なれないスカートにソワソワしながら、皆が集まるのを真紀と駅前で待っていた。
膝下丈なのが、せめてもの救いか。

「もう、そんなに気にしなくて大丈夫だよ。かわいい、かわいい。お化粧だってバッチリなんだし」

なんたってあたしがしたのよ?
得意気な、自信満々な真紀はいつでも美月にとっては可愛らしく、綺麗で自慢の親友だった。
しかし、それと自分がお洒落をするのは訳がちがう。
そもそも自分には似合わないからしてこなかった訳で。
モジモジとする美月に、割と近くから明るい声が聴こえる。

「真紀ちゃん達~こっちこっちっ皆来てるよ~」

調子のいい声は、1つの人だかりを見つけるのにはいい目印になった。
その方向をゆっくりと見つけた美月の目は、徐徐に大きく開かれることになる。

「ごめん、美月。余計なお世話だとも思ったんだけどさ。どうしても美月には頑張ってほしくて。」

真横から聞こえる声に振り返ると、真紀は申し訳なさそうに笑っている。

「なんで?え?」

「美月の話聞いてさ、いてもたってもいられなくて。見に行っちゃったんだ。そしたら彼、同じ大学だったってわかって…ほんと、ごめんね」

美月の会いたくて会いたくない人物。
田中さんは、先程見た人だかりから飛び出ていて、とても見つけやすかった。
彼もこちらを見ているが、私には気付いているのだろうか。
それも気づいてほしいようなほしくないような。
ただ、1つはっきりしているのは…

「…真紀、ありがとう。うれしいよ」

やはり、真紀は親友で。自分のことをよくわかってくれていて、何度も救ってくれる存在なのだということだった。
真紀はにこりと笑って、美月の手を引いて、田中さんのいる場所まで連れていってくれる。
美月は、真紀がいるからか、不思議と以前のような緊張もなく、自然とグループに入っていけた。
しかし彼に自分から話しかける勇気はなかったので、とりあえず後ろから眺めておくことにする。

「(やっぱでかいわ)」

相変わらずの長身に感心する。
ボーッと眺めている美月に、先程の調子良い声の持ち主が話しかけてきた。

「田中?でかいよね、でかいけど、いいやつだよ、怖くないよ」

「はあ…」

「あ、俺鈴木拓人。よろしくね」

「はあ」

気の抜けた返事しか返せない美月に、前方上から声が掛けられた。



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