テキストサイズ

スノードロップ

第1章 こい、はじめました。


「…え」

午前の受講が終わり、教室内がざわつくなか言い放たれた真紀の言葉に、美月は開いた口がふさがらなかった。

「ごめん、よくわからないんだけど」

自分の耳がおかしいんだ、そういうことにして聞き返す。
真紀は先程より前屈みに美月に顔を近づけると、はっきりと、よく通る声でさっきの文章を繰り返した。

「だから、『理学部の男子と合コンを設定したから、美月も参加するように。合コンっていっても、ただの飲み会だから気を張らなくても大丈夫。今夜6時に駅前集合』以上。なお、美月には拒否権なし」

一緒に行こうね、愛嬌のある笑顔で言われては断れなかった。
そらに、真紀なりに気を使ってくれているんだと思ったら、合コンという名称には引っ掛かるものの、嬉しさがあった。
ただの飲み会ならご飯食べていればいいだけだし、真紀もいるしで、特には気にならなかった。

「じゃ、一旦帰って洋服選ぼっか」

真紀は美月の手を取り、ずんずんと進んでいく。

「ん?ちょっ、ちょっと待ったっ、服なんてなんでもよくない?え?」

ただの飲み会。ご飯食べるだけ。他の学部の同級生と親交を深めるだけじゃないのか。
引きずられながらも、必死になってくいついていく。

「飲み会、だけど、合コン。…男の子もいるんだから、パーカーにジーンズじゃダメです。あたしが許しません。この前一緒に買いにいったワンピース、まだ着てないでしょ。それでいいから」

美月と同じくらいに華奢な腕のどこにそんな力があるのか、嫌がるとわかっているからこそ、強制的に繋がれた手を離すことはなかった。
美月にとっては嬉しいんだか悲しいんだか。
外見に似合わず強引な親友に、何度も救われている美月は、その手を振り払う術を持ち合わせてはいなかったのだった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ