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月のない世界の中で

第1章 起因

紫陽花が大輪の花を咲かす頃

ここ、A市の天気はずいぶんと快晴続きだ。

「…き、…おい!た…!」

県立A高に勤めて8年になる数学教師畠山の最近の悩みは、自分の授業中に居眠りを平気でする一人の男子生徒との心のキャッチボール不足。

畠山は生粋の熱血教師。

今年で50を迎えるとは思えない身のこなしや、柔和な対応で職場からはアツい支持を得ている。

しかし、生徒からは長年勤めているせいか長老等とおちょくる者やあまりに暑苦しいので、それを好かない生徒も少なくないという。

「滝!起きろ!!」

畠山の怒号にもにたキツい一言で、眠たい目を擦りながら起きた滝亮治。

「滝、いい加減にしないか。4月から今まで何回居眠りを発見されて注意されてると思っているんだ。」

「…はい」

「はいじゃないだろう、兎に角次に居眠りしてるところを見たら相応の対応をするからな。わかったならきちんと授業を受けなさい。」

クスクスと聞こえてきた笑い声にたちまち畠山の怒号が乱射される。

滝の成績は良くも悪くもない。

平均的なところだ。

数学に限らず座学教科は殆どの確率で居眠りをしている常習犯と言っておこう。

滝自身は他人との接点を持とうとしない非常に閉鎖的な青年だ。

容姿はこれといった感じも無く、ごくごく普通の何処にでも居る高校生。強いて言うなれば、少年の様にも見える。

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