《番犬女》は俺のもの
第22章 茜サンは、強いよね
「犯人はさ、べつに海軍将校の息子を拐ったつもりじゃなかった、ってこと。たまたま目の前を横切った金持ちそうな御子様にしか思ってなかったようだよ」
「それは…どっちが不運なのかわからんな」
「当事者の俺からすれば、‥一目瞭然だった」
そう言うと零は彼女を残してキッチンに入っていった。
カウンター越しに互いの姿は見えるけれど
彼は茜を見ようとしない。
数分前に火にかけておいた鍋の中身がちょうどよいくらいのとろみをおびたので、へらでひと混ぜしてから蓋を閉める。
そして隣の鍋で沸騰した湯の中に、零はパスタをざっと入れた。
「計画性のない犯行はすぐに足をつかれ、三日後には発見されたよ。──…突入してきた大勢の軍人を見てパニックに陥った犯人は、人質にナイフを突き付けた」
「──…」
「……で、あっという間に射殺」
「……」
「…。ほら、……小さな事件、でしょ」
零は茜の顔を見なかった。
いや、見ることができなかった──。