《番犬女》は俺のもの
第28章 ──…逃げるな
動揺する彼等を尻目に、茜は零とのやり取りを続けた。
「…なんで、そいつら庇うの」
「面倒臭いだろうか…っ、こういうチンピラ相手にすんのは」
「さっさとすませるから」
「そういう問題ではない…!」
「だって…」
茜に押し返された零は、不服な顔で彼女を見る。
「俺の茜さんに、──…触れたんだよ」
ああ、もう ほら
あの目付き──
機嫌の悪さが滲み出ている。
“ だから面倒臭いと── ”
茜は仕方なく、背後の男達に命令することに。
「私があいつを止めるから、急いで逃げろ」
「は!?」
「引き返せ、と言っている」
「な、なに言って…」
横の壁に身体を打ち付け倒れていた男が、それを聞いてよろよろと立ち上がったので
彼女はそいつにも忠告を付け加えた。
「お前もだ…。念のため、一言あいつに謝ってから逃げろ」
「…ちっ、この女…!!」
「──…っ」
しかしその忠告は、裏目にでることになる…。
「ガキの癖に調子にのんなよぉ…」
酒の飲みすぎでしわがれた声。
そんな男の右手には、小型のナイフが握られていたのだ──。