《番犬女》は俺のもの
第28章 ──…逃げるな
自分に突き付けられた鋭利な切っ先を
茜は冷静に横目で見ていた──。
“ ……そうきたか ”
「…お前等、只の酔っぱらいではなさそうだな」
そうとわかれば、丁寧な口調もサヨウナラ。
凰鳴の男子なら怯えて逃げ出す冷たい声で、茜は彼等に問いただす。
「美人のわりに酷い言葉遣いだ」
「…いちから教育が必要だな」
形勢が逆転したと思い込んでいるのか…
下品な笑みが再びやどる。
「あんたの言うとおり、酔っぱらいのチンピラさぁ…俺たちは」
「こうやって鼻につくカップル捕まえて、最悪な思い出をプレゼントしてやってんの」
「クリスマスはいいよなぁ!ハハっ」
茜の頬のすぐ横でナイフをちらつかせる男。
押し黙った彼女の様子に
怯えているに違いないと勘違いしている。
「……」
彼女は怯んでなどいないのに。
それは怒りによる沈黙なのだと…彼等が気付く気配はなかった。