《番犬女》は俺のもの
第29章 ハダカの心
「たんなる興味本意なら、これ以上──俺の理性を壊さないほうがいいと思うよ」
零がタオルを引っ張ると、茜の手からそれは容易く奪われた。
「俺は英国海軍 第一海軍卿の息子で、それを隠して遥か日本の高校生として生活している。戸籍とパスポートを細工して、歳も偽り日本人としてね。…そんな危ないヤツなんだから」
奪ったバスタオルは、無造作に横に投げられた。
「無防備にもほどがあるね……」
「そんなことはない…」
「……そぉ? 」
脱衣場で下着姿。
そんな茜の強気な態度に、零は冷ややかに笑う。
冷ややかに……そう
理性の枷が内なる熱で溶かされそうな今、歯止めをかける最後の手段だ。
「《篠田 零》は何をやっても完璧で、苦手なものなんてひとつもない男…所謂、天才」
「…自分で言うな」
「そのベールを茜さんは取ろうとしてるんだよ?」
零が、自身の服に手をかけた。
スモーキーピンクのニットを豪快に頭からぬく。
着ていたワイシャツは茜に貸した後なので、ニットを取り去ったその下は素肌だった。