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《番犬女》は俺のもの

第29章 ハダカの心


九年経った今でさえ幽かに残るその傷痕を、零は瞼を落として見詰めた。

「…俺を刺したその誘拐犯は、料理人だったんだ」

忘れられない…あの顔が

「ここに刺さった包丁は、彼の宝だった」

日本へ渡って料理人として生きるのだと語る男の、夢に輝く瞳が

綺麗な包丁だろうと自慢してくる、得意気な声が。



あの男の頭の中には、明るい未来が描かれていた。



しかし、それは失われた。



奪ったのは…誰なのか。



英国軍か?国か?父なのか──?



…きっとそれは、俺だった。




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