《番犬女》は俺のもの
第29章 ハダカの心
こんなに臆病になった自分──
ナイフだ、あのナイフのせいだ。
どうしたって思い出す
だからそんな物を、軽い気持ちで俺に向けないで。
もし自分を見失ったら
俺は マタ、傷付ケルヨ。
「…ふっ、やっぱり弱いよね」
自分の素性を隠してきたのは
自分の過去を隠してきたのは
心の痛みを隠してきたのは
──…逃げたい時にいつでも逃げられるように、そのための保険
「だって俺は、茜さんが好きなんだ」
「──…」
「…傷付けるのは、イヤ、だから」
「‥‥‥‥‥‥‥」
ガ ツーーーッ!!!
切なく目を細めて、愛おしげに彼女を見遣る。
黒髪をとかそうと手を添えかけた零に向かって、茜は渾身の頭突きを御見舞いした。