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第3章 ~悪夢~

 どしゃぶりの雨を恨めしそうに眺め、直生は溜息を一つ吐き出した。

直生は、雨が苦手だ。

視界が悪く全速力で走ることが出来ないことが、直生には耐えられなかった。

「直生、無理ならリタイアしろよ?」

心配げにそう言ってくる凜に、直生は強気な瞳を向ける。

「嫌だよ、意地でも表彰台に乗ってやる。…でないと、花音ちゃんが気にするだろ?」

基本的に女性に甘い直生は、そう言って笑みを浮かべた。

「……お前って、チームのために走ろうとかそういう考えはないのかよ?」

「あるわけないだろ? 俺は別に稜賀のためにレーサーになったわけじゃねぇもん。」

冷めた瞳で凜を一瞥し、直生はそう愚痴る。

 小学生の時からカートを始めた直生は、ずっと本社であり実家でもある稜賀自動車のサポートは受けずに自分の力だけでスポンサーを得て、投資を行い…資金を工面してきた。

インディカーを走るまで、実家の援助を受けたくなかった直生は、本名を隠していた程だ。

インディカーのドライバーになった直生が、シリーズチャンピオンシップでの成績が伸びてくると、ずっと反対していた父親が掌を返したかのように、今まで着手しなかったレース業界に参入した。

それでも、直生がレーサーをしていることが心配な父親は、ことあるごとに辞めて欲しがるのだが……。

「それでも、稜賀自動車の看板背負ってるんだろ? 今は、お前が社長なんだからさ。」

言い聞かせるように凜はそう言ってきた。

「はいはい、だから……それなりに成績上げてるだろ? 稜賀の売り上げだって伸びてるしさ、何かまだ他に至らぬところある?」

適当にそう返しつつ、直生はそう言って笑みを浮かべる。

「お前は要領いいからな……。」

呆れたように凜はそうこぼした。

…そうして、直生の愛用のメットを差し出す。

「そろそろ時間だ。この雨だから、あんまり飛ばすなよ?」

「分かってるよ。」

そういいながら、直生は手早く無線をつけてメットをかぶった。

そうして、左脇腹を庇いつつコクピットに身を納めた。

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