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第4章 ~決勝~

 肋骨の罅を固定し痛み止めを打って望んだ決勝戦は幸いにも晴天だったが、最後のピットストップを終え残り十周を残したところで、直生は響く痛みに震える息を吐き出す。

恐らく、肋骨の罅は…悪化しているだろう。もしかしたら、折れているのかもしれない。

そんなことを思いつつ、直生は痛みをこらえながら、周回遅れの車を追い抜いてゆく。

十位からスタートした直生は、最初のスタートダッシュ時に五位まで順位を上げると、最初のピットストップまでに二台を抜かし、ピット作戦で二位までに登りつめた。

現在、トップとの差は…僅か0.3秒。

けれど、振動で激痛が走るこの状況で、直生は走りきる事を最優先させた。

「凜っ。悪いけど、ペース落とすぞ。…マジでこのままのスピードで行ったら、気を失う。」

震える声音でそう断りを入れると、直生は痛みを紛らわすために深呼吸を繰り返す。

「直生、三位との差が二十秒以上ある。…分かってると思うけど、その位置キープしろよ?」

「簡単に言ってくれるよ。…本当に痛いんだって。」

そう文句をこぼしつつ、直生は…嘆息をこぼすと、凜に指示を出した。

「…凜、医者を待機させとけよ。多分、折れてる。」

「大丈夫、颯太(そうた)がいる。安心して、位置をキープしろ。」

容赦のない凜の言葉に、直生は思わず声を上げた。

「決勝前と言ってる事が違うじゃないかよっ! 無理ならリタイアしていいって言ったろ?」

「お前が、大丈夫だっていったんだろ? 表彰台に乗るんだろ? 自分で言ったんだから、守れよな。」

凜の感情すらこめないその声音に、直生はぽつりと呟く。

「むかつく。…もっと、心配してくれたっていいじゃないかよ。」

「リタイアする気なんてないくせに、弱音を吐くからだ。あー、そうだ。会長がいらしてる。気合で走れ。」

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