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第4章 ~決勝~

「…もっと早く言えよ、それ……。会長に代われ。」

会長は、引退した先代社長…つまり、直生の父親だ。

「なんだ。レース中に話してて、大丈夫なのか?」

「口を動かしてないと、痛みで気が変になりそうなんだよ。…大体、何で来てんの?」

「…お前が怪我している上に走るとか言うからだ。だから、さっさとレーサーを辞めろといってるだろう。」

父親は、直生がレーサーをすることに最初から反対していた。

理由はただ一つ。長兄だからだ。

「一応名前だけでも会社を継いだんだから、好きなことやらしてくれたっていいだろ? しぶしぶ認めたんだから、今更文句を言うなよ。」

「朝陽(あさひ)が心配してついてきてる。あとで、観光でも付き合ってやれ。」

朝陽は、二人いる弟のうち一番下の弟だ。

彼は本の虫で…趣味が高じて図書館を作り上げた。

5歳下の末弟を、直生は可愛がっている。

「朝陽が? 珍しいな…。なんか、やる気でた。」

末弟が来ているなら、格好悪いところを見せられない。

直生は二位の位置をキープさせていたが、ギアを最速に入れると、高速サーキットを全開で突っ走ってゆく。

残り三周…。恐らく意識は保たれるだろうと、直生は判断した。

「おいっ。無理をするなって…。直生っ。」

無線から心配げに声を投げる父親の声がする。

「分かってるよ。大丈夫だって…。どうせ、もう多分折れちゃってるし。これ以上は酷くならないだろ。」

楽観的に直生はそう返すと、前方を見つめ…慣れた手つきでステアリングとギアを操ってゆく。

そうして、ファイナルラップまでに元の0.3秒差まで縮めると、周回遅れの車をうまく使って…前方の車を追い抜いた。

「さすが直生。怪我してても相変わらずの速さだな。」

呆れたように凜はそう無線越しに賞賛する。

「まぁな…。」

「そのまま突っ切れ。」

「分かってる。」

そう返しつつ、直生は前方をみつ
めたまま加速していく。そうして、直生はそのままゴールした。

「さすが、チャンピオンだな。」

そうぽつりと凜はこぼし、安堵の息を吐き出す。

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