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第7章 ~堕ちる彼女~

 あの一夜から一週間後、モナコに場所を移して


早朝から直生は稜賀自動車本社の


急な仕事に追われてしまっていた。



「だから、わざわざお前まで来る必要ないだろって言ってんのっ!


 俺が書類にサインしたら済む話じゃん。


とりあえずメールで送るから取り急ぎ先方に渡せ。


現物は朝陽に渡すからさ。」



携帯を片手に直生は不機嫌にそう声を荒げている。


そんな直生を一瞥しつつ、花音は栞とお茶を楽しんでいた。



「直生さんって、怒る事もあるんですねぇ。


あんなに不機嫌な顔初めて見ました。」



「あぁ、直生は女に甘いから。


基本、女に怒らないのよね。


でも、仕事になると豹変するのよ。


一切の妥協を許さないのよね。


昔から頭の回転が速いから、


ムダがないのよ。」



紅茶を片手に、栞はそう言って解説してくれる。



「へぇ…。直生さんって、頭いいんですねぇ。」



感心したようにそう呟く花音に、栞は穏やかに笑みを返すと、口を開いた。



「直生は遊び人してるけど、本当はあれで一途なのよ。


かなり重いくらい。


珍しいのよね、週刊誌に撮られて直生が否定しないのって。


花音ちゃんに本気で堕ちたんじゃない?」



「……直生さんって、どこまで本気で言ってるのか分かんないんですよね。」



花音はそうこぼすと、嘆息を一つ吐き出した。



「俺はいつでも本気だよ?」



電話を終えたらしい直生がそう後ろから声を投げてきた。


そうして、不機嫌な表情を浮かべ栞に釘を刺す。



「栞、余計な事言うなよな?」

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