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~夢の底─

第2章 扉のなかの渚─。

 「…いいね、バドミントン久しぶりにやって、あぁ肩張った─五十肩かな?」吹き出したヒースの横顔に、ため息をつく。「やっぱり若いよ、元気だもの」「それも、…冗談でしょう?」バスは海岸道路をゆく。「それがね、年増になるほど、愚痴が多くなるの」「愚痴るんですか?」 
 窓が風に、ひとしきり音を立てる。「そう。─ユノもそうなんだよ…」「意外ですね、ちょっと想像できない─」首をひねる。「例えばね。お茶を呑んでウンウンと頷いたり…」「ハイ。…?」「俺はもう30だから労ってくれとか、しょっちゅう云うしね」「え? 30で…もう?」「まだあるよ。最近の若い者はなってないって、うるさいしね」チャンミンをつくづく見やりながら、「結構、ユノ先輩といるのも─大変ですね」「こうやってユノの愚痴を云う僕も、だらけてるよ。もう若い時のようには、いかないね」金のいろの髪を指先で軽く払う。「このバス、夕方の海の道…トコトコ走って童話みたいに可愛い。でもね。─ユノは中年街道を驀進してるんだよね」遠慮のないヒースの笑い声が、夕暮れのバスの中に満ちた。



 「あ…れ?」素肌にパーカーを着たユノが、まばたきしてチャンミンの顔を見た。

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