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~夢の底─

第2章 扉のなかの渚─。

 まだ慌ただしく、息をはずませるユノの身体を椅子に戻した。…荒い息が止まない。…椅子の背にユノはもたれた。黙って立ち上がり、テーブルに、散乱した紙を集めた。その書類を握り潰したい。そして、…(ここで、仕事の資料を踏みつけるぐらい…ユノを……) 背後ではまだ息を整えている様子だった。─どうしようもない怒りが、チャンミンの身体の奥底から沸き上がった。(この─机に仰むけにして)
 ─先刻までの醒めた心持ちは掻き消され、暗い狂った火が、鋼鉄の冷たさだった胸の奥に灯り、次第に乱れてゆく。(僕、…前はこんなじゃ、なかったのに)「リビングに、来てください」何かを断ち切るように、声を絞り出した。(弟。弟…僕をそう呼んでくれる─兄と恃む─ひと…を)
 「お茶、─シナモン入ったから…呼びに、来たんです」自分にもわけが判らない苛立ちを、ユノにぶつけていきそうで怖かった。…床に落ちた残りの紙を拾い、「あとで…僕も見ます」だるそうに頷くユノを見もせず、ユノの部屋からチャンミンは出た。





 「チャンミンさん」声がする。朗らかな、微笑いを含んだ、若々しい声 ─香ばしい匂いもキチネットから、届く。

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