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青い桜は何を願う

第9章 かなしみの姫と騎士と


「莢ちゃん、でも私……いいえ、リーシェはもしかすればとてつもなく非道いことを」

 別荘で見た夢が、さくらの胸裏で、だんだん、輪郭を顕してゆく。

「さくらちゃん、ちょっと私の手、強く握ってみて」

 急に片手を持ち上げられて、どぎまぎしながら、さくらは片手に力を入れた。

「目、閉じて」

「こう、かしら?」

「何か見える?」

「……あっ……」

 目蓋の裏に、また、少女達のぼやけたシルエットが浮かんだ。
 揃いのブレスレットを腕に嵌めた彼女達の顔はよく見えない。ただ、幸せそうに微笑み合っている感じがある。

 今日は、やけにこのビジョンがよく見える。

「今でも不思議体験するんでしょ?私に桜風を吹かせられたんだし、さくらちゃんももしかしたらと思うんだ」

「──……」

「未来、見えたでしょ」

 さくらは、莢の甘い囁きに、暗示にでもかかったように、うっとりと頷く。

「幸せそう。幸せそうな女の子が、二人」

「なら安心だ。それ、さくらちゃんと私だから」

 莢の言葉はまるで魔法だ。
 それだけで、さくらは未来も莢との繋がりも、信じられる気がした。

「そうだ、今度会うまで」

 莢の首元を飾っていたスカーフが、さくらの左手にあてがわれた。

 白薔薇の刺繍が入ったそれに、さくらは見入る。

「相思相愛。そして、無垢な愛。誕生日に花束じゃなくて悪いけど、さくらちゃんに預かっていて欲しい」

「莢ちゃん」

「お願い。さくらちゃん。何があっても、何を聞いても、私を信じて」

「───…」

 意味深長な莢の言葉に、さくらは頷くより他になかった。
 桜の木々よりずっと遠くを見つめる莢に、何も言えない自分がもどかしい。

「分かったわ。それじゃあ」

 ──私はこれを。

 さくらは自分の首からネックレスを外して、莢のうなじに金具を回した。
 大振りの金古美のクロスを飾る、青みがかった桜のペンダントトップは、氷桜にどこか似ていた。

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