
青い桜は何を願う
第2章 出逢いは突然のハプニング
「私、嘘は嫌いなんだぁ」
「……弦祇、先輩……」
「だから、このままじゃ貴女にさっき嘘をついた私自身を許せない。言い直させて」
このはの指先がさくらの左手の甲をなぞった。
それだけで、さくらの全身に何かが走る。
さくらの胸が、このはの伏せた睫の下に見え隠れする瞳の色に締めつけられた。
「貴女のファンだなんてね、私言ったけど、あれは嘘」
やはり、呟くような、囁くような声だ。
「皆みたいな軽い気持ちで、アイドルを追いかけるみたいな目で、一度だって美咲さんを見たことないよ。見られないよ」
「それっ……」
「美咲さんが、好き。好きでいさせて。…──愛情、の意味で好き。見返りはいらない。いつか返事を聞かせてくれれば、今はまだ、貴女の側にいられるなら、そういうのも幸せかなって。美咲さんのものに、なりたかったぁ」
「……弦祇先輩……」
「このはって呼んでよ。私も、さくらちゃんって呼ぶ」
「──……」
「…──みたいに」
小さくこぼれたこのはの声が何を言ったか、さくらは聞き逃した。
昔みたいに、と、言ったか?
まさか。そんなことはありえまい。
ただ、さくらは、このはと触れ合う手の温もりが、初めてのものではない気がした。
「……このは先輩……」
顔を上げたこのはと目が合った。
さくらは、綺麗な黒曜石が濡れたみたいな、真っ直ぐな大きな瞳から、目を逸らせなくなる。
初めて見た気がしない。
「髪、ふわふわなんだね」
さくらの自然にカールした髪が、このはの指に絡め捕られる。
「あっ……」
この感じを知っている。
さくらは詰まる呼吸を辛うじて繰り返しながら、姫袖のフリルをぎゅっと握った。
第1章 出逢いは突然のハプニング─完─
