
青い桜は何を願う
第2章 出逢いは突然のハプニング
モヒカン頭の少年もとい真淵の周囲に、木片やら紙の筒やら、用途不明ながらくたが散らばっていた。
一体何がどうなって、真淵が倒れて、周囲がここまで荒れ果てたのか。
さくらが頭をひねっている内に、このはが電話を終えていた。
「彼、生徒会なんですの……」
「そんな風には見えないよね。西麹は生徒会長の顔は有名でも、書記や会計は裏方みたいに目立たないし、中等部にいた美咲さんが信じられなくても仕方ないよ。私から見ても真淵先輩って、ちょっと悪戯っ子なガキ大将にしか見えない。美咲さんの方がずっと目立ってる」
「それって……喜んで良いものではありませんわよね……」
「ううん、キラキラしてるってことだよ。演劇部にも多いもん、貴女のファン。華やかでお上品で、声も綺麗で、女の子の憧れなんだよ」
「まさか」
「冗談だって思う?真面目な話。部長のもも先輩も、今演劇部で練習している『不思議の国のアリス』でね、ヒロインのアリス役なんだけど、美咲さんみたいに綺麗に歩きたいって仰ってた。私、戻ったら皆に叩かれちゃうなぁ」
「…………」
このはの指が、その小柄な身体を包んだパステルブルーのレースのボレロのリボンを結び直した。
どこからかそよ風が吹き込んできた。
このはの姫カットの金髪が揺れて、朗らかな笑みをこぼした頬を、さらさら撫でる。
「弦祇先輩は憧れで、私なんて手も届かない素敵な人なのに……」
「困らせちゃった?ごめんね、美咲さん。でもね、困ってるのは私も同じ。美咲さんみたいな綺麗な人が、私のことを知ってくれていたなんて。今、穴があったら入りたい気分だよ」
「……──っ」
「迷惑ついでに、もう一つ言わせてくれない?」
あっ、と思う間もなくさくらの右手がこのはの両手に捕らわれた。
このはの甘くてたおやかなオーラに圧倒されて、春の小花を優しく撫でるそよ風みたいなその声に、気をとられていた所為だ。
意識不明の真淵を除けば、ここには、さくらとこのは以外、誰もいない。
人知れない空間で、たった二人で手をとり合っている。
さくらは、何だかはしたないことをしている背徳感に迫られる。そしてこの現状に酔いしれていた。
きっと、さくら自身がこのはを求めているからだ。
