
青い桜は何を願う
第3章 青い花の記憶
あれだけ美しかった海で、滅多に人は見かけなかった。だから存分に寛げて、花見もピクニックも楽しめた。
リーシェと仲の良かった侍女の選りすぐってくれた紅茶をポットに淹れて、バスケットには、カイルの手製の英国風のサンドイッチやサブレを詰め込んだ。
『これからの時代、女性にばかり水仕事をさせる男なんて、みっともないだけではありませんか』
カイルは、口だけではなかった。料理の腕前は完璧だった。それから絵を嗜んでいて、リーシェが桜を眺めたり食後のデザートを楽しむ間、手持ち無沙汰に海や桜をデッサンしていた。
いつも、カイルは甘いミントの香りがしていた。
潮風に混じったようなミントの香りだ。オードトワレもポプリも使わなかったらしいが、いつも綺麗な匂いがしていた。
リーシェはカイルのそんな透明な雰囲気も、とてもとても愛していた。
優しいカイルの瞳に見つめられて、微笑みを交わす。
リーシェは、それだけで世界に愛されていると錯覚出来た。
