
青い桜は何を願う
第4章 私達にリングはいらない
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「か……硬い……」
さくらは今日も、手芸部の活動に打ち込んでいた。使い馴染んだ家庭科室の作業台に向かって、まさに今、奮闘しているところだ。
さくらが来月のファッションショーに向けてこしらえいる衣装は、薄紅色の小花柄の赤い和服だ。
トーションレースの覗いた襟に、ふわふわ広がるアシンメトリーの衽(おくみ)、浴衣の型紙を改造して生地に起こした二部式のそれは、和服は和服でも、飛び抜けてハイカラなデザインだ。パニエを重ねて、ふわふわのシルエットに仕上がる予定だ。
さくらは、その袖口と八ツ口の境界に、染井吉野の造花を並べて縫いつけていた。
「硬そーう。ディスカウントショップの造花なんて、本来、服飾向けではないものね。萼プラスチックなんだから、ボンドを使えば良いのに」
「洗濯に出せなくなるんだわ」
「ああ、そこを考えていたわけね」
さくらは、今にも腕の関節が鳴りそうな手を止めて、まりあの手元をちらと見る。
トップスとボトムの切替部分にドット柄の大きなリボンの付いた、アイボリーのジョーゼットのハイウエストワンピースが、着々と形になりつつあった。
「まりあは姫系?そういうのも、見ていると可愛いと思うわ」
「うーん、あたし、やっぱ姫系に入る?自分ではそうでもないと思っているんだけれど」
「だって、今日のお洋服も『STAR LOST ARTICLE』でしょ」
「そういうさくさくは、『Fillete rose』、似合ってる」
「そうかしら。ふふ、有り難う」
さくらのパステルピンクのドレープの重なるスカートに、まりあの片手が伸びてきた。
本当にひらひらね、と、いつも一緒にいる親友に、クラシカルロリィタの洋服を未だ珍しそう観察されるのは、茶飯事だ。
「ところで、弦祇先輩とはどう?好きだって、言われたんでしょ?お返事は?」
「まりあ!っ……、周りに、聞こえてしまうわ」
さくらはまりあの袖を引いて、声を潜めた。
「問題でも?」
「このは先輩に、迷惑は、かけたくないの」
さくらはこのはに、確かに、好意を伝えられたつもりになれるだけの言葉をもらった。
だが、冷静になってみれば分かる。
一昨日も、昨日も、このはのくれたあまりに都合の良い言葉の数々は、さしずめ掴みどころのないリップサービスだったのだ。
