
青い桜は何を願う
第4章 私達にリングはいらない
「俺は、……流衣ちゃんの、味方です。俺のためにも」
「──……」
「あいつは討つ。本当は、今すぐお前を連れて逃げたい。けど、それは俺達兄妹のためにはなら──」
「行夜」
流衣は行夜の唇を、ティーカップの端で押さえつける。
「それ以上は、言うな」
「…………」
「私はお前に恨まれても仕方ない。同情も、お節介もいらない」
「そんなことは決して」
「だって私は──」
言いかけて、はっとした。
違う。行夜だけが味方だった。
流衣は物心つかなかった頃、ここに引き取られてきた。
表向き銀月家の長女として暮らしてきたが、実の父親は、義満の弟だ。そして戸籍上の母親は、無実の罪を着せられて、その配偶者と一緒に獄中にいる。
流衣は銀月の人間が何者かを知った時、同時に、自分の身体に流れている血の半分が何を意味しているかを悟った。あんなにも愛して、あんなにも守りたかった少女の人生を破滅させた、皇族のそれだ。
命を断とうとしたことさえあった。だが、行夜が付きっきりになって止めてくれた。嫌がらせによる復讐かと思ったが、それから義満の兄の心理療法を受けながら、気晴らしに芝居を始めて、そこであの可愛い下級生に出逢った。
冷静に物事を見つめられるようになって、ようやく分かった。このお人好しの兄は、心から、人目を憚からねばならない事情を差し置いてでも、肉親として認めてくれていたのだ。
行夜は、政治学を嗜んでいる。何より血は争えない。義満の手を離れることも、今ならきっと出来るだろうし、本当に連れ出してくれるだろう。
だが、流衣は、ここを離れられなくなってしまった。
どうせ反逆の魂と、穢れた血だ。いつどうなっても構わない。
今度こそ彼女を、否、このはだけは守り抜く。
