
青い桜は何を願う
第5章 黄昏の三つ巴
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さくらが家庭科室に戻ると、透が茶器の並べた盆を運んできた。
緑茶と、洒落た焼き物の皿に桜餅が美味しそうに盛りつけてある。
「お帰り、美咲さん。早がね、あ、真淵っていう生徒会書記、知ってるよね?」
「ええ、モヒカンの先輩」
「うん。一昨日迷惑をかけたお詫びに渡しておいてくれって、さっき訪ねてきたんだ。美咲さんが現場にいたこと、早、保健医の先生から聞いたみたい」
「それで……桜餅を」
「そう。こういうのはケジメが肝心なんだって。許してあげてくれないかな?あれでも根は真っ直ぐな子なんだ。ちょっとやんちゃなだけで」
あれが「ちょっと」で済まされるのか?
さくらは反駁したくなったところを堪えた。
このはに因縁をつけた早の行動は感心しないが、透を困らせたくはない。
「有り難く、いただきますわ」
ふっと、扉の向こうから、このはと流衣の声が聞こえてきた。
今朝は少し寂しかったが、こうしてこのはの声が聞こえてくると、やはり落ち着く。
さくらにとってこのはの声は、いつしか、部活になくてはならなくなっていたのだ。
「まりあ、桜餅一つずつしない?」
「あたしは良いわ。透様のお弁当作りに最近気合い入れていたら、試食しすぎて、太っちゃったの」
「細いじゃないの」
「目じゃ体重は計れない」
まりあの意志は固いらしい。
さくらはまりあにお茶の相手をしてもらうのは諦めて、盆を置いて腰を下ろした。
急須から湯飲みに緑茶を注ぐ。熱々の水面にそっと息を吹きかけて、口に含む。
仄かに甘い風雅な風味に包まれた。
ほど良い塩気が上品な甘みを引き立てる、桜餅を楊子で一口大に切り分けていると、ふと一昨日の南校舎でのことが思い起こされてきた。
真淵は何故、このはに絡んでいたのだろう。何故彼は、荒れ放題の廊下で気絶していたのだろう。
さくらは、結局、何一つ知ることが出来なかった。
ただ、このはは何かを隠している。
さくらは胸騒ぎにも似た予感がしていた。
