
青い桜は何を願う
第2章 出逢いは突然のハプニング
「お疲れ様、まりあ。それで、どうだったのかしら?世界史の追試は」
まりあのここでの定位置は、さくらの隣だ。
互いに回転椅子を回して、さくらはまりあと向き合った。
「聞いて、さくさくぅ。折角昨日、一夜漬けで試験範囲、全部、頭に叩き込んだのに、あたしの記憶は朝陽に当たると溶けてしまうみたいでね」
「まぁ」
「古代哲学者のおじさん達の名前も事件名も地名や理由も、書けたのに……法令や組織の名称だってバッチリ覚えてきたのにっ」
「手応えがあったのね」
「全っっ然!年号と事象が頭の中で一致しなかったのよっ!ちんぷんかんぷんよっ。ついでに最後の問題なんて、教科書に載ってなかったやつなのよぉ」
「それはつまり引っかけ問題?」
「ほら、河内先生が雑談してた人。何ちゃら戦争で手柄を立てた指揮官だけど、部下が大量に命を落としたからって責任とって、自分で自分の名前を国の記録から削ったおじさんっ。昔は名前が残ってこそ名誉で万歳ってな時代だったから、それを自分から返上したとかで、河内先生が『男の中の男だー』って褒めてたおじさんの名前が分からなかったのー……」
無念を一気に吐き出して、まりあは作業台に突っ伏した。
「仕方がないわ。暗記苦手なのにまりあは頑張ったと思う。レポート、私も手伝うから今日のことは忘れましょう?」
かくいうさくらも、歴史は不得手だ。ノートだって、教師の雑談までとるような優等生ではない。
さくらには、まりあの不運が他人事とは思えない。
「レポート……決定なんだ……」
「あっ。違うの。まりあが不合格とるんじゃないかって言いたかったんじゃなくて、そのっ」
「うそうそ、気にしないで。慌てなくてもあたしはさくさくのこと大好きよ?」
「有り難う」
「大本命は、ウチの部長の透様っ。草食男子を絵に描いたみたいなあの貴公子桐島透(きりしまとおる)様だけれど、愛人にするなら断然さくさく!」
「あっ……愛、愛っ、愛人?!」
「そーんな驚く?ってか、記録から消したんなら、歴史にも名前残ってないでしょ。河内先生が話していた指揮官のおじさん。歴史から名前消えちゃってるんならさ、先生が知ってるのっておかしくなぁい?胡散臭いわ」
「…………」
さくらの胸裏に、まりあのひねくれた疑問の所為で、複雑な思いが押し寄せてきた。
