
青い桜は何を願う
第2章 出逢いは突然のハプニング
『いつかの来世、貴女と俺が……一六になる年の春……』
『いや、カイル……ダメ……』
『平凡な人間、同士、あの海辺に咲く樹の下で……リーシェ様のお誕生日をお祝いします……』
春になると思い出す。それは、さくらがさくらでなかった時代、一人の少年と交わした最後の言葉だ。
この島国は、倭と呼ばれるよりずっと昔、学者達が超古代と呼んでいる頃、氷華(こおりのはな)という名の王国だった。
さくらが、最後の王の娘、リーシェ・ミゼレッタとして生きた場所だ。そして、専属護衛だった名誉騎士、カイル・クラウスという名の少年と、恋に落ちた。
カイルは桜を忌んでいた。だのに、リーシェがそれを好んでいるのを知っていて、毎年、こっそり城を抜け出して、とっておきの花見名所へ連れていってくれたものだ。
リーシェはその先、何年も何十年も、きっと、自分が王女の役目として、異国の王子を配偶者と呼ぶようになっても、それは変わらないと信じて疑っていなかった。氷華で王女の側に置かれる専属護衛は、生涯、側にいることを定められていた。氷華が敵対していた隣国、天祈(あまき)帝国との戦が勃発して、カイルが戦死しなければ、それは現実になるはずだった。
さくらもリーシェも、この世に生まれ落ちたのは、薄紅色が空を染める愛おしい季節、四月一日だ。
胸が騒ぐ。カイルは、実は、驚くほど近くにいるのではないか?
さくらは、まりあに向き直る。
「何だって、存在した事実は消えないの。一人の人を、あるいは国を、愛した人達の心の中から名前を消すことは誰にも出来ない。だからたとえ水面下でも、密かに語り継がれる奇跡もあるのかも知れないわ」
カイル・クラウスは歴史に名前を残さなかったが、さくらの中で生きている。氷華も同じだ。
さくらは、大好きな親友に微笑んだ。
「なるほどね」
「──……」
「まるで自分のことみたいに話すのね、さくさく。実体験?」
「えっ、別に──」
「あ、弦祇先輩のことかなー?そっかそっか、弦祇先輩は役者志望らしいけれど、成就するとは限らないものねぇ。だとすれば、あの妖精さんの晴れ姿はさくさくの胸の中だけに未来永劫残る……!美しい、愛情だわ」
「どっ、どうして弦祇先輩なのっ?大体、先輩に失礼でしょう!」
さくらは、ぎくりとしたり慌てふためいたり、大忙しだ。
