
青い桜は何を願う
第7章 哀情連鎖
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「莢っ?何してんの、こんなとこで」
「それは私の台詞、このは。さくらちゃんは?」
「タクシー呼んで送り出したよぉ。運転手の名刺ももらってあるし、電話した時、運転手は優しいお姉さんにして下さいってお願いした。あいつらの手下だって心配はないよぉ」
「絶対とは言えないでしょ?!」
外車の主と思しき少女と、海にいそうな浅黒い肌をしたスーツ姿の青年は蚊帳の外に置いておいて、莢はこのはになじり寄る。
「昨日の今日だよ。赤の他人にさくらちゃんを任せるなんて、どうかしている」
「さくらちゃんとはメールもしてるし電話番号も交換してる。何かあったら連絡出来るもん」
「何かあってからじゃ遅いっての」
「大体、莢なに?!何でこんなとこうろついてんのよっ」
「さくらちゃんの護衛に来たの。どうせこのはは付きっきりでいられないんだ。暇な私がやるしかない」
「私、悪いけど、さくらちゃんと部活は違っても、活動場所は目と鼻の先だよ。いつでも駆けつけられるんだよ」
信用したのが間違いだった。
莢はこのはのあまりに楽観的な構えに、取り合う気力も失せてゆく。
このはは所詮、どこの馬の骨かも知れない小娘だ。やはりさくらを守れるのは、氷華(こおりばな)の由緒正しい騎士の家系の出であるカイルだけだ。
「大体、莢は、……」
「はい、そこまで」
莢をめがけて振り上げられたこのはの右手が、斜め上で制止された。
「有川さん、手、邪魔」
「行夜、このはは男に厳しいから気を付けろ」
「流衣先輩は黙ってて下さい!」
「有川さん」と呼ばれた青年の手が、このはに呆気なく振り払われた。
「貴女は、希宮莢さん?」
「っ……」
莢は、初対面の青年の大きな目に狼狽えた。
何故、この青年に名前を知られているのだ。
もっとも、莢は一部のネットワークの間では、有名だ。
ゴシックパンクファッションの愛好家達を始め、レズビアンやバイセクシャルをカミングアウトしている女子達に、つまるところモテていた。
莢にとって、自分にありったけの好意をぶつけてくる女達は、まんざらでもない。庇護欲をそそってくれるうぶな少女は退屈をしのぐのにはちょうど良いし、人生経験や思考に脂の乗った、年上の女性も好ましい。
莢は、いわゆるモテ期を、思う存分満喫していた。
