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青い桜は何を願う

第7章 哀情連鎖

 
 私立西麹学園は、市内でも屈指の進学校というだけあって、そのセキュリティは万全だった。

 莢は、この私服通学が義務づけられている学園内に、今しがた潜り込もうとしたところ、守衛の男に追い払われた。

 どこから見ても、いたいけのない思春期まっただ中の少女だ。そして莢は、何より自分の容姿に自信がある。
 守衛に不審者扱いされようとは、夢にも思っていなかった。

 莢は校門前に立ち尽くして、生徒達が校庭へ吸い込まれてゆく様を眺めていた。

 学内に入り込む方法を、また一から思索する。

 どれくらいの時が経ったろう。

 莢の近くに黒塗りの外車が停車した。

 うららかな朝の空の下、街でも滅多に見かけない類いの豪奢な外車は、かなり目立つ。

 西麹は名門校だ。ドラマや漫画の世界の中でまみえるような良家の子女も、在学しているということか。

 さすれば外車の運転手は、執事や専属ドライバーだったりするのか?

 もっとも、まさか運転手が本当に執事で、後部座席では本当に真性お嬢様が寛いでいようとは、存外だった。ましてや囚われの姫まで同乗していようとは、生まれてから今日までの間、少なくとも莢の常識ではありえなかった。

「……有り難うございました」

「素晴らしい棒読みでございますね、弦祇様。いやぁ、いっそ清々しいものでございます」

「褒めてないぜ、行夜。お姫様はご機嫌斜めだ。これ以上怒らせちゃ私が後始末に困る。けど、あれだけ脱け殻みたいな顔をして、家から出てきたさっきのこのはを思い出すと、行夜の選択は正しかったな」

「いえいえ、俺は当然のことをしたまでです。大事な大事な流衣ちゃんのためなら、俺は、拉致の一度や二度や三度や四度──」

「三度目は警察を呼びます!」

 運転席から出てきたのは、きっちりアイロンのかかったスーツに身を包んだ三十路前後の青年だ。張りついた笑顔が暑苦しい。

 青年が後部座席のドアを開けると、華のあるあえかな少年が、否、少女が一人、降りてきた。
 栗色を帯びた黒髪に、ガラス細工のドールよろしく端正のとれた顔かたち、ユニセックスな青文字系の洋服にめかし込まれた長身は、いとも優美だ。
 そして最後に出てきたのは、ふてくされた顔の少女、莢のよく知る金髪ツインテールの妖精だった。

「このはっ?!」

 莢は条件反射的に、見知らぬ外車に駆け出していた。

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