
青い桜は何を願う
第7章 哀情連鎖
* * * * * * *
地上では高級ベンツを運転している行夜も、ここではソーラーカーのドライバーだった。
莢は行夜の愛車に揺られて、最近、投影機が開発されてようやく昼間の空を地上に似せられるようになったのだとか、ここの住民に義務づけられた納税額は地上を遥かに下回るのだとか、どうでも良い話を聞かされながら、銀月家の資料庫に連れられていった。
資料庫は、さしずめ廃工場の外観だった。
だが、行夜が古びた扉を開けると、カビ臭さを伴う懐かしい感じの空気がこぼれてきた。そこには、整頓された書棚を始め、見覚えのあるがらくたやら絵画やら、氷華と天祈が存在していた時代のものが、所狭しと保管してあった。
莢は行夜に、そこでまたしてもくたびれるほど長い長い昔話を聞かされた。
行夜の話は、書庫に入って一時間弱ほど経った頃、ひと段落した。この饒舌な執事もさすがに喉が渇いたのか、いつのものかも分からない、ペットボトルの水を喉に流し込んでいた。
「まさか………このはが……」
ようやっと喉元から押し出せた声は、莢自身呆れるくらい、生気の抜けたものだった。
「信じられない話でしたか?」
たった今、莢が行夜に聞かされたばかりの話は、主にカイルがこの世を去った後のことだ。しかるにそれらは、初耳の事柄が多くを占めていたが、頭ごなしに絵空事だと否定出来ない理由もあった。
「貴女には、心当たりがあったようですね。やはり……。俺は信じられませんでした。信じたくありませんでした」
「信じたく、なかった?」
「はい。大事な、この俺の命よりも大事なお嬢様と、弦祇様の過去を知った時、……今のお二人の身に直接起きたことではなきにしろ、割りきることが出来ませんでした」
行夜が机の上を睨ねめつけて、どん、と、拳を打ちつけた。
「流衣ちゃんは、いにしえの帝国天祈の皇族の家系、銀月の血を引いておいでです。その所為か、今の話を、俺にも打ち明けて下さいません。おそらく、昔イェンヒェルに背いた引け目から。そして、それを繰り返さねばならない事態も……予期しておいでなのでしょう」
「──……」
「流衣ちゃんの前世の記憶は本物だ。しかし、いつも夢だと語られては、ひどく寂しそうになさいます。俺は何も知らない使用人の顔で、一緒に笑い飛ばして差し上げます」
