
青い桜は何を願う
第7章 哀情連鎖
莢は、今朝見かけた少女の面影を求める。
はっとするほど玲瓏たる佇まいをしていたが、所詮、お高くとまった令嬢にしか見えなかった。何故このはが一緒にいたのかも、謎だった。
今なら腑に落ちなかったところの辻褄が合う。
莢は、初めてこのはと顔を合わせた夜も、今朝と似通う衝撃を受けたものだ。
「貴女は、デラ様を覚えていないと仰った。それは貴女の記憶が、人間本来の自己防衛力に閉ざされるほど、憎んでいたからではありませんか?」
「──……」
行夜の見解は、多分、正しい。
ミゼレッタ家の王女ないしは王子に置かれる、専属護衛は、二人と定められていた。そしてリーシェにつけられたのが、カイルと、デラという名の少女だった。
莢は、憎んでも憎み足りなかった少女の存在を覚えている。疎ましかった。それと同時に、誰よりデラを信頼していた。
ただし、デラはカイルと対等の立場にありながら、その生まれは王女の護衛を拝命するには、あまりに忌まわしいものだった。
莢は何故、あんなにもカイルとリーシェに親しく関わっていた少女を、今日の今まで忘れていたのか。
「このはが、デラなんだ」
「──……。希宮さん。どうか弦祇様とは手をお切り下さい」
「どういう意味?」
「聖花隊の連中の中に、弦祇様に目をつけている輩がいます」
「このはは、それを狙っていたから」
「弦祇様が、王女のカムフラージュのために旦那様や一条様に狙われては、厄介なんです」
「貴方にとって不都合が?」
「流衣ちゃんは放っておかれないでしょう。……あの方に、弦祇様を旦那様や第二創世界から守りきれる見込みはありません。ですからどうかお願いです」
深々と、行夜が頭を下げてきた。
「リーシェを、美咲さくらさんを連れて身を隠して下さい」
* * * * * * *
「有川さん。このはは守られなくちゃいけないほど落ちぶれてない。あんたはただのお節介だよ」
「弦祇様を……どうしても貴女の謀叛に巻き込むと?」
「謀叛?銀月のしようとしていることは、洗脳、クーデターだ。私はその悪事を潰す。そしてリーシェ様を愛している。だから彼女を守るだけ。協力してくれてるのはこのはの意思だ」
顔色を変えた行夜の目が、莢の指摘を肯定していた。
「ど、どうかお願いします!」
行夜が、再三頭を下げてきた。
