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チェスト

第1章 出会い

さて、昨日は勢いでお弁当を作る約束をしてしまったが、どうしたものか。昨日の真似では自分自身飽きてしまうし、味の好みも知らない。予想と手探りでなんとかするしかないようだ。とりあえず、卵を出してこよう。
「あら、自分でお弁当なんて珍しい。私たちの分もよろしくね。」
母の一言で、実家通いで楽をする予定だった僕は一気に忙しくなった。これから毎日、自分、母、父、そして凛さんの分のお弁当を作るとなると気が重くなった。
「お、おう。任せておけ!母さんよりは丁寧に作るよ!」
口と気持ちは大体反対なものだ。誰の前でも。

「え、本当に作ってきてくださったんですか?」
お弁当を渡した時、彼女は目をまん丸にしていた。とても、家事ができないキャラだと思われていたらしい。
「美味しいかは分からないけど、頑張って練習すっからさ、アドバイスお願いします。」
黙って食べ始めて、時々目を瞑る仕草がとても美しかった。でも、本当に吟味されている気がして、どこか怖かった。足が自然と振れていたかもしれない。
「男料理の領域は超えていると思います。是非、出来立てを食べてみたいものですわ。」
言い方は少しキツかったけど、にっこりしていた。
「じゃぁ、とりあえず合格?食べてくれる?」
「もちろん、美味しくなくても頂きますし、これは美味しく頂きます。本当にありがとう。」
「よかった。」
どうやら僕は初めから彼女の下にいるようだ。本来は気に触るキャラのハズなのに、彼女は実態も僕より上だからイライラしない。敬意を払ってくれるし、僕のこともよく分かってる。ますます、凛さんのことが気になってきた。僕らは一体、どういうなれ染めをして、今、ここにいるのだろう。
「謙さん、食べませんの?」
へ?「あ、やぁ、ごめんごめん。ちょっと考え事。」
心の声が漏れるとはこういうことか。
「そうでしたか。変わりませんね。」
「え、そんなに考え事するキャラなんですか?僕って。」
「いつも、みんなの事ばかり考えている人でしたよ。同級生なのに、遠くから来たみたいな。そういう中学生でしたよ。今も、その面影を拝見しました。」
「はぁ、凛さんって人間観察好きなんですか?」
「そうかもしれませんね。」
他愛もない話の中に、どこか重さを感じるこの話し方。帰ったら、凛さんについて本腰を入れて調べよう。
「あ、蜂。」
「きゃー‼︎む、無理です‼︎」
女子だなぁ。
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