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はな*つむ

第1章 陽炎

 退魔師になれば、命をかけても都を守る立場になる。
 都には妖怪や魔性が溢れかえって居るため、退魔師の力は必須だった。


 毎年何人もの退魔師が死んでいる。

 氷雨は退魔師になるのが嫌とは思わなかった。
命をかける事も、怖くは無い。
 生まれた時から退魔師の技術を教え込まれ、戦う事を教えられて来たのだから。

 しかし、今の氷雨は少しばかり怖じ気付いていた。

 原因は退魔師になるための儀にある。

 この儀式で氷雨は女として大切なモノを無くさねばならない。


 その事を思うと、氷雨の気持ちは暗く重たくなった。







 しかし、無常にも夜は訪れる。

 《ミツミの間》と名付けられた部屋に氷雨は向かう。
二人の侍女に付き添われ、部屋の前に立つ。

 部屋の前で止まった氷雨の羽織をそっと侍女たちが脱がせた。
 薄い肌着姿になった氷雨から離れ、侍女たちは頭を下げる。


 氷雨は無言のまま戸を開け、ミツミの間に入った。


 小さな灯籠がひとつだけ灯された部屋の真ん中に、真っ白な布団が敷かれている。
 布団は赤い布で一部を包んであり、二つの色が灯りの中に浮かぶ。

 そして、布団の上には一人の男が座っていた。

 不気味な鬼の面をつけた男だ。
 彼も薄着で、氷雨を手招きする。

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