君のそばに
第11章 優しいオオカミ
コンコンッ
フジ 「 失礼します 」
オオカミは丁寧にドアをノックして入りました。
ヒラ 「 やあやあ、これはオオカミさんじゃないですか、なんの御用ですか? 」
ベットの上に寝転がっている病弱そうな青年がいました。
フジ 「 お願いがあるんですが 」
オオカミは真剣な顔で青年に近寄りました。
ヒラ 「 まさか食べて殺すつもりなの? 」
青年の表情はみるみる青白くなり、身を引きました。
フジ 「 違います、おそらく殺さなければいけないと思うんですが、俺は貴方たちを殺せません 」
オオカミは悲しそうな微笑みを浮かべました。
フジ 「 どうか、俺がここに来たことは内緒にしてくれないでしょうか? 」
青年は真面目な顔をして、何故?と尋ねました。
フジ 「 貴方を殺せば彼を殺さなければならない、けど、俺は...俺はきっと気弱だから..彼を殺す事なんて出来ない... 」
オオカミはじわりと涙ぐんで言いました。
ヒラ 「 そっか..、君がそうしたいなら僕は黙っておくよ 」
青年は、ため息混じりに言いました。
フジ 「 ありがとう、じゃあ俺はこれで 」
ヒラ 「 あのね、オオカミさん 」
青年は静かな声で言いました。
ヒラ 「 時に優しい気持ちが相手を傷付けている事を忘れないで 」
オオカミはきょとん、とした顔で振り向き、精一杯の微笑みで頷き、暗い森の中へと消えていきました。
ヒラ 「 君は優しすぎるんだよ 」
青年はぽつり、と呟き窓の外を眺めたした。
ヒラ 「 これじゃあ、また振り出しに逆戻りじゃないか、俺は二人の悲しむ顔はもう見たくないのに 」
そう言って、1人部屋で泣くのでした。