
触れたくない。
第2章 二
『こんにちは、お嬢さん』
聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきて、はっとした。
微かな意識だったけれど、この声だけははっきりと覚えている。
『こ、こんにちは…』
振り返ると、先程いなかったはずの縁側に、男のヒトがちょこんと座っていて。
挨拶を返すと、ちょいちょい、と嬉しそうに手招きされる。
『え、あの、』
『暇を持て余してるんだ。話し相手をちょうど探していた』
『は、はぁ…』
なんだこの人。昨日も思ったけれど、随分変わった人だ。
不審に思いつつも、恩人を軽くあしらうわけにはいかない。私は恐る恐る近づいて、隣に座った。
すると、すぐにゆったりとした声が耳に届く。
『今日は随分顔色が良さそうでよかったよ』
『え?あっそ、そうだった。その、昨日は……、』
ありがとうございました。
顔を上げながらそう言うつもりだったのに、私は驚きのあまり言葉を飲み込んだ。
初めて目をあわして、やっと気付いた彼の顔の精巧さに驚いたのだ。
