
触れたくない。
第3章 三
「大丈夫かよ」
「う、うん…。なんとか…。すごく…パワフルなご両親だね……」
何時間たっただろうか。二人が酔いつぶれ、やっと客間が静かになった頃。
カケイも心なしか疲れた様子で、壁にもたれて目を瞑った。
着崩れしたスーツが妙に色っぽい。
「疲れた…。あの人たちのあのテンションは昔からああなんだよ」
「へえ…。なんか、意外。カケイってすごくクールだから、ご両親もそんな感じなのかと思ってた」
ボソリと言えば、カケイが目を少しだけ開けて私を見る。
その目を見て、カケイはお母さん似なんだなあ、なんてぼんやりと思っていると、
「菜月」
ふいに、名前を呼ばれた。
「、」
「左手、出して」
すっと長い腕が伸ばされて、少し掠れた声に誘導されるように、
無意識に彼に手を差し出す。
すると、薬指に感じた冷たさに、私ははっと息を飲んだ。
「少しの間だけど、俺の婚約者になってくれ」
はめこまれたのは、ダイヤがキラリと光るシンプルな指輪。
それをはめた手は、まだ私の手を離さずに。
彼の切れ長の瞳は、まだ私を捕らえてる。
