
触れたくない。
第3章 三
「まだ理由を聞いてないんだけど…」
「…覚えてたか」
「当たり前でしょ」
そう言うと、カケイはフッと静かに笑った。
そして、繋がれた指を弄びながら口を開く。
「最近、結婚しろ結婚しろって周りから言われるようになってさ。色んな人から女の人紹介されるし。でもまだ結婚する必要はないって思ってるから、使えそうなお前に頼んだ。以上」
「…え。そんだけ?」
「ああ。そんだけ」
「軽いわね…。どうやって婚約取り消したって言うのよ…」
「別れたって言えばいい」
……別れた。確かに、それしかないよね。
「あと」
「え?」
「いい加減元気だしてもらわないと迷惑」
「、」
目をしばたたかせて何も言えずにいると、そっと手が外され、顔を背けられる。
「帰るか」
「えっあ、う、うん」
慌てて立ち上がったカケイに着いていったけれど、もしかしてカケイは気を遣ってくれたのかな…。
パワフルすぎて確かに疲れたけれど、彼のご両親は本当にほのぼのとして楽しかったから、
七瀬さんのことをすっかり頭で考えていなかった。
カケイなら色んな女の人に頼めただろうし…。
そう思うと、申し訳ない気持ちの反面、温かいものが広がって。
目の前にあるカケイの背中に向けて小さく「よろしく」と言った。
