
触れたくない。
第4章 四
「…、有難く貰っておきます」
拍子抜けっちゃ拍子抜けで。文句も言おうとも思ったけれど、彼から物を貰うのは初めてだということに気付いた。
それがどんなものでも嬉しいもので、ヒラヒラと動かされるそれを取ろうと手を伸ばせば。
「しかし、」
と、なぜか私の手は彼の手によって掴まれていて。
どうしたのかと聞く前に、私の手を掴んでいる反対の手が首元に触れたからどきりとした。
「どうやら少し目を離している隙に飼い猫は野良猫になってしまったらしいな」
「え?」
「もう一度、飼いならす必要があるか」
「どういう意……あ、」
にこり。不敵な笑みを浮べた彼の視線の先にあるのは、首にかけられた偽りの婚約指輪。
抱きついた時に見えたのだろうか。
それより七瀬さん、絶対誤解してる…?!
「七瀬さんこれは違うんです、えっと…話せば長いといいますか、」
「そうだな、楽しい話を早く聞きたいものだ。だが、話ができる余裕があればの話だ」
「ひっ」
ぐいっと顎を強引に引き寄せられ、七瀬さんの綺麗な顔が一気に近づく。
私は彼の浮べる笑みが悪魔の笑みに見え、これから起こるであろうものに冷や汗を流すことしかできなかった。
