
弱く儚く。
第1章 俺の大事なもの。
俺は親父の部屋の前に立っている。
今日、親父は会社が休みだからこの部屋で仕事をしているはずだ。
「‥っよし‥」
軽く手を握りドアを叩く。
返事はすぐに返ってきた。
「なんだ?」
扉を開けると、すぐにこういった。
「俺、音楽がやりたいんだ。」
自分の本音を打ち明けるのは、いつぶりだろう。
母が、交通事故で亡くなっていらいだ。
俺の母は、俺が中3の時に交通事故でこの世を去った。
母が生死をさまよっている時も、永遠の眠りについた時も、
ずっと親父は仕事をしていた。ずっと。
白状すぎるだろ?
母は死ぬ寸前に力なく目を開けたんだ。
奇跡だって、あとで看護さんが言っていた。
でも、その時の言葉がずっと頭にこびりついて離れないんだよ‥。
俺しか、病室にいないことを知った母が、
『少し寂しいなぁ‥お母さん。』
と悲しげに呟いたのだ。
そして、すぐに目を開けなくなった。
それから、親父とは距離をとっていた。
でも、今はそんなこと言ってらんない。
真っ直ぐ親父を見据える。
「現実を見なさい。」
親父から出た言葉は、この一言だけだった。
俺が黙り込むと、親父が口を開く。
「音楽を、やったってお前のことを見る奴なんて何処にもいないぞ?」
「っ!?」
流石に声が詰まった。
知ってるつもりだった。理解してるつもりだった。
そんなこと。
でも、実際に突きつけられると怖くなる。
成功しないかもしれないんだ‥。
「くそっ‥。いいよ。やってやるよ。」
「なんだ?」
でも、絶対に諦めらんないんだよ!
「俺、この家出る。」
サイフと、スマホだけを掴み外へと駆け出す。
親父の大きな声が聞こえてきたような気がしたけれど、
構わずに走った。
涙が出そうだ。
もう泣いてしまいたい。
そうだ。泣いて仕舞えばいい。
わかってるんだよ!
無理だってこと。
でも、本当に俺の夢は叶わないのかよ!?
クソ野郎っ‥。
