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彩夏 ~君がいたから、あの夏は輝いていた~

第2章 友達でいたかった

昨日知ったことだ。
奈緒子と一緒に帰り、本屋をぶらぶらして、その後アイスクリームを食べた店で突然言われた。
明日は奈緒子の誕生日らしい。去年は付き合い始めたときにはもう過ぎていたから、知らなかった。

「ていうか、おまえ、言われるまで気にならなかったのかよ」

バシっ。

「お、いいね、今のスライダー」

練習終わりに、もう少しピッチングをしたくて、広明に付き合ってもらう。2年生になってからは日課になっている。 正捕手の菅野ではなく、広明がいい。やっぱり広明に受けてもらうと、良し悪しが手に取るようにわかる。

「ストレート行こう。インコースで」

構える。振りかぶる。投げる。
パンっ。

「もうちょい、右」

バシッ

「めっちゃいい球!で、プレゼント何あげんの?」
「…わかんね。花束、とか?」
「えー!?花束もらったら照れんだろ。ていうか、日本人だろ、おまえ」
「でも昨日聞いて明日誕生日って…急すぎだよ。プレゼント買いに行く暇ねーし。花束、おかしいか?」
「いや、まあ…好きずき?あ、でも」

そうか、花束はまずいのか。

「千咲んちの花屋で、いいの作ってもらえば?」

チェンジアップ。

「え、野瀬んち、まだ花屋やってんの?」
「まだ、って塔也、知ってたの?花屋って」
「…ああ、たぶん広明から聞いた」
「言ったっけかな。まあいいや。駅裏でやってるよ。千咲、手伝いしてる」

この街に引っ越してきて、真っ先に向かったのは駅前の花屋だった。でももう、なくなっていた。その花屋が、まだある…千咲があのひまわりの隣で笑っていたのを思い出す。
広明が、50と言った。
50球投げて、終わり。それから広明のバッティングピッチャーを50球。
試合ができなくても、いまは力をつける時だと思って1日1日を真面目に、大事に過ごしたい。来年に向けて。秋期大会も出られないなら、夏しかない。チャンスは、一回。

「帰ろうか」
「塔也。先帰って、おれ先生とこ行ってくる」
「おう、じゃあな。明日」

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