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彩夏 ~君がいたから、あの夏は輝いていた~

第2章 友達でいたかった

6時間目の自習中、窓から千咲のクラスの体育が見えた。千咲が美帆と呼んでいる気の強そうなやつと、ソフトボール大会の練習なのか、キャッチボールをしている。
へったくそ。
転がってきたボールに、グローブをかぶせて取っている。あいつ、一体広明の何を見てるんだ?
全然だな。見てて笑える。笑いを堪えていたが、ついに吹き出してしまった。

「なに見てんの?」
「ん?ああ、あれ。ひどいなと思って」

前の席の小野塚が振り返って聞いた。

「本当だ、ひどいな。あ、C組か」

ひとりの女の子がこっちに気づいて手を振った。僕に、じゃないから小野塚か。

「知り合い?」
「付き合ってる」
「へー。彼女いるんだ」
「渡辺は?」
「いるよ。けどさ、わからないんだ。付き合い方が」

小野塚も課題を終えたようで、体ごと後ろを向いて座り直した。

「おれも。わかんね。持て余してる」
「な」
「うん」

小野塚みたいな完璧なやつでも、わからないんだ。僕にわかるわけもないか。
そう思うと、楽になりそうな気がする。

「野球部、大丈夫?」
「うーん、どうかな。おれ達はともかく、3年生が残念だよな」
「だよなー。来年は絶対だな。渡辺、エースピッチャーだろ、責任あんじゃん」
「だよな。そうなんだよ」
「部活かあ。走りたいな」

広明経由の桐野情報によると、小野塚は中学時代、100mで県の記録を出したらしい。走りたい、ってことは、別に嫌で辞めたわけじゃないんだな。
その時、ちょうどチャイムが鳴った。グラウンドを見ると、千咲は別の友達と爆笑しながら片付けをしていた。
今度は爆笑か。
色んな顔、するんだな。

終業のチャイムがなると、みんな何となく帰る用意を始めた。僕は課題を集めて職員室に持っていく途中、廊下で奈緒子に会った。

「…ちは」

いつものように、小さく頭を下げて通りすぎると奈緒子も笑ってすれ違おうとした。女子ばかりのクラスの前は、何となく早く通りすぎたい。

あ。明日。部活、休みだ。

「奈緒子っ…!」

あたりにいた3年生の女子が一斉に振り向いた。
パタパタ、っと奈緒子が駆け寄ってきて真っ赤な顔をした。はずかしそうに、でも笑っていた。

「どうしたの、急に名前呼んだりして」
「いや…明日一緒に帰ろう、って言おうとして…すみません、…住友先輩」

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