テキストサイズ

彩夏 ~君がいたから、あの夏は輝いていた~

第2章 友達でいたかった

廊下の端で、僕らは何がおかしいのか笑いが止まらなかった。学校で、こんなふうに奈緒子と話すのは初めてだった。でも多分、奈緒子はこういうことを求めていた。

「今日の練習、市営グラウンドだ」
「うん。じゃあ、後でね」

僕は、栗色の奈緒子の頭にぽん、と手を乗せて、後でなと言って職員室に向かっ
笑顔は、伝染するんだ。

「見たぞ、塔也ぁ~」

市営グラウンドでの練習が終わって、自転車で学校に戻る途中、広明が面白そうに近づいてきた。まあ大体の見当はつく。

「ヒミツじゃなかったのかよ、住友せん…」
「…140kmオーバーのデッドボール受けたいか?」
「ていうか、なにあのキュンキュン」
「は?キュンキュン?」
「市高のエースが彼女の頭ポンポンはないわー」

広明、どっから見てたんだ?ほんっと、こいつ…

「気を付けろよなー。おまえ、他の学校の女子にも人気あるんだから。ショック受けちゃうよ?」
「ないだろ」

その時、キャプテンの寺嶋先輩がグラウンドに入ってきた。

「渡辺」

寺嶋先輩はクールダウンしようとしていた僕を呼び止めて手招きした。

「なあ、甲斐ともう一度組みたいか?」

意外な言葉に僕は驚き、即答できなかった。

「…甲斐、コンバートですか?」
「いや。そうじゃないんだ。…今いいか?」
「はい」

僕は寺嶋先輩に呼ばれてベンチに入った。

「単刀直入に聞くわ。おまえ、菅野と合わないよな」
「え…?」

菅野とは去年の秋からバッテリーを組んでいる。同じ2年生で、確かにあまり性格は合わない。なぜ監督は菅野を正捕手にしたのか、今もわからない。

「来年の夏は、甲子園行きたいよな」
「はい」
「もう、勝てるメンバーでしか試合したくないよな」
「…はい」
「おまえが心底信頼できるキャッチャーは誰だ」
「甲斐です」
「はは。おまえ、甲斐の言うことしか聞かねえもんな」
「そんなことは…」
「わかった。言っとく。おれさ、渡辺は最高のピッチャーだと思ってる。シニアリーグの時から、おまえが投げたら後ろはみんな安心感半端なかったんだ。こいつとずっと野球したいって思ってた。だから、市高に来てくれた時、本気で甲子園目指せると思った。だから、おまえには、おまえと甲斐には甲子園、行ってほしい」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ