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彩夏 ~君がいたから、あの夏は輝いていた~

第2章 友達でいたかった

その間も奈緒子の手首を離さなかった。
後ろ手にドアを閉めると、開けっ放しだった窓から風が入り、カーテンが大きく膨らんだ。

「塔也…っ…」

両手首をつかんだまま、壁に奈緒子を追いやり、貪るようにして唇を押し付けた。柔らかくて冷たい唇がひらいた。間髪を入れず舌をねじこむと、応えるように奈緒子の舌も動いた。

…ほら、やっぱりそういう女なんだ。

僕はそのまま奈緒子をベッドに押し倒した。

「ん……っ」

抵抗もせず、ただこれから起ころうとしていることを素直に受け入れている。
好きなんかじゃない。
奈緒子も、僕も、本当はお互いを好きではないんだ。
それでも。
隙間を埋めるために必要だったんだろ?
僕がそうだったように。
人と人が交わるとき、このエネルギーはどこから来るのだろう。この熱は、この快楽は、この背徳感は。
何度も放った快感が津波になって、僕は飲み込まれるような感覚の中にいた。
波が引くと、奈緒子に覆い被さるようにしたまま、自分を取り戻すために身じろぎひとつせず、しばらくは、目を閉じて見える光を見ていた。
ようやくそこから引き抜くと、そのまま奈緒子の隣に仰向けになった。彼女の顔を見られなかった。
窓の外はまだ風が吹いていて、カーテンが膨らんだり吸い込まれたりしている。
夏の夜の始まりが、その間から見えた。何度も見たことのある空の色なのに、全然違う。さっき公園で見ていた色とは、全然違う。…違う空を、知ってしまった。

「すきな人がいるの?」
「…いるよ」
「私じゃなくて?」
「うん。奈緒子じゃない」
「だと思ってた。驚かないよ」
「でも努力はしたつもりだよ。奈緒子のこと、好きになろうとした」
「でも、ならなかった?」
「うん。ならなかった」

僕は冷たい。でも僕らは同じくらい冷たい。だから、誰も傷ついては、いない。

「でも、こういうこと、したい?」
「…したい」
「いいよ。しよ」

冷たいけれど、体は熱かった。汗や、唾液や、お互いの放出する液体にまみれて僕らは何度も抱き合った。初めてなのに知っていた。
身体と心は、別々に存在することを。
手に入らないとわかると、途端に手を伸ばそうとすることを。

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