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彩夏 ~君がいたから、あの夏は輝いていた~

第2章 友達でいたかった

夏休みが来た。午前中はグラウンド練習、午後はトレーニングをこなし、夜少しだけ奈緒子に会う。そんな毎日だった。
会うのはたいてい僕らの家の真ん中にある公園で、他愛ない話をして、またそれぞれの家に帰っていった。
始まったばかりの夏休みの夜は、どこも人の気配がして濃密な空気がそこらじゅうで停滞している。

「塔也、どこも調子悪くない?」
「ん?悪くないよ」

暗くなった公園のベンチで並んで座りながら、奈緒子が僕をのぞきこんで聞いた。冷やしちゃダメだよ、と言って僕のヒジに自分の手を当てた。
真夏なのに、じんわり温かい手のぬくもりが伝わってきた。やわらかい、ちいさな手。

「なんで、おれなの?奈緒子はそれまで彼氏、いなかったの?」

ふいに聞いてみたくなった。

「どうしたの?急に」
「いや…何となく」
「…いたよ」

別にいないと思っていたわけじゃない。

「寺嶋くん」
「え…?」
「中学の時から、ずっと寺嶋くんと付き合ってたの」
「あ、もしかして」

シニアリーグ時代、練習をよく見に来ていたひとがいた。メガネをかけて髪を三つ編みにした…そういえば、背格好が奈緒子に似ていた。

「寺嶋くんを見てたのに、いつの間にか…」
「…何で別れた?」
「だって、塔也が市高に入学してきて、塔也のことが…好きになったから」

奈緒子は躊躇いながらもはっきりと答えた。
そんな簡単なものなのか。
それが僕の正直な気持ちだった。
好きな人がいて、相手も同じ気持ちでいてくれるのに、違う相手が現れたら、また好きになるのか?
目の前にいる奈緒子が、いつもと違って見えた。

「…軽い女だって思った?しかも、塔也は寺嶋くんのかわいがってる後輩。ひどいよね」
「奈緒子」

どうしてだろう。
僕のなかでチリチリと音をたてて、なにかに火がついた。
奈緒子の細い手首をつかんで、なかば引っ張るようにして歩き始めた。塔也、どこ行くの、と何度か問うていた奈緒子はそのうちに諦めたように黙って僕のあとをついてきた。
しばらく歩いて家に着くと、ポケットから鍵を出して玄関を開けた。暗がりを、明かりもつけずに自分の部屋に上がった。

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